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2012年06月23日

グリーンエコノミーフォーラム・メールニュースvol.2「Rio+20閉幕に際して」をリリース

平素より大変お世話になっております。

6月20~22日(金曜日)までの3日間、ブラジルのリオデジャネイロにて開催された「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」は、成果文書「我々が望む未来(The Future We Want)」を採択し、閉幕しました。
グリーンエコノミーフォーラムのメンバーは6月12日に現地に入り、交渉状況をウォッチしてきました。また、この期間、リオ+20の展示会場にあるジャパンパビリオンやリオ+20に合わせて開催されているピープルズサミットにおいて、積極的に講演等を行いました。
今回のメールニュースでは、リオ+20成果文書、成果文書に対するJACSES緊急コメント、各国・ステークホルダーの主な声明・コメント、グリーンエコノミーフォーラムのメンバー・関係者による所感をお伝えしたいと思います。

左)プレナリーの様子。各国首脳や大臣が演説を行っている。右)ピープルズサミットにおけるデモの様子。

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*グリーンエコノミーフォーラムは、NGO・事業者・研究者・政策担当者の多様なセクターの連携による、環境・社会問題解決に資す経済推進のためのフォーラムです。

*第三回準備会合・事前会議での交渉論点及びリオ+20成果文書の仮採択内容などを報告するメールニュースvol.1「リオ+20の現場から」(6月20日配信)は以下からご覧いただけます。
http://geforum.net/archives/341

*グリーンエコノミーフォーラムでは、交渉の論点や各国の交渉ポジションを記載したレポートを公表しています。より詳しくご覧になりたい方は是非ご参照ください。
http://geforum.net/archives/325

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目次
1 リオ+20成果文書と各国・ステークホルダーによる声明・コメント
(1)リオ+20成果文書「The Future We Want(我々が望む未来)」
(2)JACSESによるリオ+20成果文書への緊急コメント
(3)各国・ステークホルダーによる声明・コメント
2 所感
(1)「大きな後退、かすかな希望:「リオ+20」のこれから」古沢 広祐
(2)「「リオ+20」の立ち位置」沖村 理史
(3)「リオ+20は企業にどのような影響を与えるのでしょう その2」山口 智彦
(4)「玄葉外相演説「緑の未来イニシアティブ」への期待と課題」田辺 有輝
(5)「市民社会の意見集約の困難性と意義について」小野田 真二
(6)「リオ+20を超えて」足立 治郎
3 編集後記

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1. リオ+20成果文書と各国・団体による声明・コメント
(1)リオ+20成果文書

国連持続可能な開発委員会のHPに、リオ+20成果文書「我々が望む未来(The Future We Want)」が掲載されました。以下から取得いただけます。
http://www.uncsd2012.org/thefuturewewant.html

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(2)JACSESによるリオ+20成果文書への緊急コメント

当フォーラムの協力団体である「環境・持続社会」研究センター(JACSES)より、成果文書への緊急コメントが発表されました。

2012年6月22日
リオ+20成果文書への緊急コメント
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)

本日(現地時間)、ブラジル・リオデジャネイロで開催されている国連持続可能な開発会議(リオ+20)にて、成果文書が採択される予定である。リオ+20は、1992年の地球サミット、2002年のヨハネスブルクサミットに引き続き開催される持続可能な開発に関する重要な国際会議である。成果文書の中には、以下の通り、小さな前進と考えられる点、または今後の進展次第では成果に繋がる可能性がある点もある(カッコ内は成果文書パラグラフ番号)。

1. 持続可能な開発目標(SDGs)策定プロセス開始の合意<248>
2. 持続可能な開発委員会に代わり、持続可能な開発実施のフォローアップを行うためのハイレベル政治フォーラムの設立<84>
3. 資金ニーズの評価・効果の検討などを行うための政府間協議プロセスの設立<255>
4. グリーン経済を持続可能な開発達成のための重要なツールとして位置付け、資金・技術・能力開発プラットフォーム等を推奨<56&66>
5. 非効率な化石燃料補助金の段階的な撤廃の約束・取り組みの再確認と未実施の国々への税制改革・化石燃料補助金合理化検討の推奨<225>
6. 企業の持続可能性レポーティングのグッドプラクティス・モデル開発の奨励<47>
7. 持続可能な消費と生産に関する10年枠組みの採択<226>
8. 国連腐敗防止条約の未批准国に対する批准検討の要求含む汚職・腐敗防止の取り組み強化<266>
9. 生物多様性・健康などに負の影響を及ぼしうる技術のアセスメントのための能力強化の重要性を認識<275>

しかし、2010年5月の第1回準備会合以降、約2年に渡って10回以上の交渉が行われたが、全般的に具体性に乏しく成果としては不十分である。特に以下の点について進展が見られなかったこと、ないし取り上げられなかったことは非常に残念である。今後、これらの点について、国際合意が図られることを期待したい。

1. グリーン経済に関するロードマップ/戦略策定
2. 抜本的な税財政/公的金融改革の推進
3. エネルギーアクセス改善と再生可能エネルギー大幅促進のための具体的な目標や実施手段
4. 公海における生物多様性保護と持続可能な利用に関する国際交渉開始
5. 革新的資金メカニズムを促す国際検討プロセス設置
6. 国際金融機関・各国政府機関・民間金融機関の環境社会配慮基準整備
7. 軍事費削減に関する国際検討プロセス開始

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(3)各国・ステークホルダーによる声明・コメント

成果文書(仮採択を含む)に対する各国・ステークホルダーの主な声明・コメントを以下に掲載します。

【各国・グループ】
European Commission、「Joint statement by Janez Poto?nik and Ida Auken on the Rio+20 Declaration」(6月19日付)のページ:
http://europa.eu/rapid/pressReleasesAction.do?reference=MEMO/12/461&format=HTML&aged=0&language=EN&guiLanguage=en

【メジャーグループ】
Canadian civil society groups、「Canadian Civil Society Responds to Rio+20 Final Text」(6月19日付)のページ:
http://climateactionnetwork.ca/2012/06/19/canadian-civil-society-responds-to-rio20-final-text/

WWF、「WWF Rio+20 closing statement」(6月21日付)のページ:
http://wwf.panda.org/wwf_news/?205343/WWF-Rio20-closing-statement

Greenpeace、「Greenpeace Press Statement: Rio+20 Earth Summit- a failure of epic proportions」(6月22日付)のページ:
http://www.greenpeace.org/international/en/press/releases/Greenpeace-Press-Statement-Rio20-Earth-Summit-a-failure-of-epic-proportions/

International Work Group for Indigenous Affairs「RIO +20: Final draft “recognizes” the importance of the UNDRIP」(6月19日付)のページ:
http://www.iwgia.org/news/search-news?news_id=533

Major Group for Children and Youth、「Rio+20 Closing Statement」(6月22日付)のページ:
http://youthclimate.org/wp-content/uploads/2012/06/MGCY_Rio20_Closing+Statement.pdf

Inter-American Development Bank、「MDB joint statement for Rio+20」(6月19日付)のページ:
http://www.iadb.org/en/news/announcements/2012-06-19/mdb-joint-statement-for-rio20,10032.html
(岸俊介・岩切広美)

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2.所感

(1)大きな後退、かすかな希望:「リオ+20」のこれから
国学院大学 & グリーンエコノミーフォーラム
古沢 広祐

各国代表による演説が続く中、国連持続可能な開発会議(リオ・プラス20)が終わりを迎えた。すでに前回の中間的途中報告のとおり、最終段階の合意文書では、92年地球サミット以来積み上げてきた様々な成果を確認し留意する記述が大半を占めており、新たな前進ないし現状打破の野心的な道筋は見出し難い内容となっている。各国の利害がぶつかる世界の厳しい現実への対応は棚上げされて、軍事・平和問題や原子力利用のリスク問題などはついに表面には浮上しなかった。その点だけ見てもリオ+20への不満はつきず、まさに大きな後退であり、20年前の「リオの希望」の灯火は消えかかっていると言わざるを得ない。

しかしながら、南北対立などの利害衝突で会議が決裂するといった最悪の事態は何とか乗り越えられた。その点では、人類は未来への希望をつなぎとめていると言っていいだろう。細かくは多少とも評価すべき合意内容はなされており、詳細については別(グリーンエコノミーフォーラム;リオ+20ニュース等)に譲るが、とりわけ印象深かった希望の光とでも言えそうな注目点についてだけ記しておきたい。

グリーンエコノミーに関しては、先進国からの押しつけとして反発を招きがちであったが、持続可能な開発・発展目標(SDGs)に関しては取り組む方向性が提示できた点は評価したい。しかも、このSDGsを当初から提起しリードした国は、ブラジル・中国・インドといった新興国ではなくコロンビアとグァテマラ等であった。ミレニアム開発目標(MDGs)が、どちらかというと貧困削減など途上国の開発・発展を促す開発志向的な性格を帯びたものであるのに対し、経済面のみならず環境面や社会面の座標軸を含み込むより包括的な土俵が提示された意義は大きい。当初は、MDGsがSDGsに吸収され弱められてしまうといった反応が出ていたのだが、先進国サイドではなくコロンビアなどの周辺的な途上国サイドからのリードで進んだことは注目に値する。

20年前の地球サミットや10年前のヨハネスブルグ環境・開発サミットでは、カナダや欧州などのリーダーシップが目立ったのだが、リオ+20では世界の中心軸が明らかに移行しつつある現実が現れていた。かつての発展の矛盾をそのまま後追いするのではない、新しいビジョンを形成する道筋を、どこのどんな国々と人々がリードしていくのだろうか。南北対立を超えるかすかな希望の火がともりはじめたかもしれない。幻想でないことを祈りつつ小さな期待を胸に秘めて、リオ+20の今後を見守っていきたい。

***

最後になるが、リオ+20に向けて事前準備した提言(4つの課題)をここに掲載して、本稿を閉じることにしたい。(前文は省略)

八方ふさがりを打開する道 ~日本から発信すべき4つの課題~

社会的歪みの根元には、市場経済の無制限なグローバル競争がある。歪みの一例をあげると、経済拡大を最優先するあまり、法人税の引き下げや所得税最高税率の引き下げ競争が各国で同時進行し、企業サイドの経営力強化がはかられた。その一方では、コスト削減と合理化によって働く人々の賃金低下やストレス増大が広がったのだった。
また、世界中で石油・地下資源などの確保、食料や生物遺伝資源の囲い込みなど、経済的な利害が優先され、それを陰に陽に政治的圧力ときには軍事力の背景が後押しする旧態依然の時代状況が再現しつつあるかにみえる。軋轢という点では、イラクやアフガニスタン、イスラエルなどにおいて、テロリズムや民族対立の温床に火をつけるかのような様相さえ出現させてきた。今後の世界情勢として、有事や戦争を想定するような事態への移行は、人類が築きあげた「民主主義と人権」や「環境と平和」を、内にも外にも消滅させてしまう危惧を感じさせる。極端な言い方をすれば、人を殺すための軍事費は、冷戦体制の消滅後(20年前)に一時的に減少したものが再び増加し始めて、再び年額約1兆ドルを超える規模となっている。本来は人々の命と生活を支援するための政府開発援助(ODA:実際の内容の評価には検討の余地がある)の世界総額に対して、10倍近い規模の軍事費への支出拡大という現実を私たちは真摯に受けとめなければならない。

以下に、リオ+20に期待する優先課題を列記する。

第1の課題は、持続可能な発展を実現させる財政的な基盤として、92年地球サミット当時に期待されていた「平和の配当」という構造転換路線を再来させる必要がある。当時、冷戦終結による軍事費の削減が「平和の配当」として注目され、多額の軍事費を人類の福祉や南北問題、貧困の撲滅、環境問題などにあてる地球市民的な理念と政策展開が期待された。この理念と理想を再び復活させるメッセージを世界に発せられるのは、リオ+20の場において他は無い。年額1兆ドルとは、温暖化対策に必要な途上国への資金(コペンハーゲン合意)の10倍規模、MDGs(国連ミレニアム開発目標)達成に必要な追加資金の20倍規模の金額である。言い換えれば、1/10、1/20で賄えるということである。
とくに国際社会における日本は、戦後の発展を非軍事に基礎をおいて進め(憲法9条)、それなりの成功を収めた経験を持つことから、世界に対して「平和の配当」を率先して提起すべき位置にある。

第2の課題は、1992年地球サミットを契機に築き上げてきた重要な展開を、包括的かつ統合的に再構築する必要がある。双子の条約として理解されるべき2つの国際環境条約や、貧困撲滅をめざすMDGs等の動きなどが、個別ばらばらな取り組みになりがちな状況を打開すべきである。環境・社会・経済の調和的な関係形成を基礎に、環境的適正と社会的公正を実現する「持続可能な発展」の理念を統合的に明示化し、SDGsの目標として提示することが望まれる。とくに日本からの提起としては、従来からの「人間の安全保障」:Human securityをより拡張、深化させる概念として、SDGsの目標とリンクするような「持続可能な人間安全保障」:Sustainable human securityの考え方を世界に提示し、広く連携強化をはかっていくことが重要である。

第3の課題は、グローバルな持続可能性を実現するための統合的な政策枠組みとして、各国でばらばらな税・財政の仕組みを徐々にグリーン化していく政策展開と目標の提示が求められている。環境的適正の実現のためには、持続可能性の3原則(再生可能資源を再生可能な速度内で利用する、枯渇資源利用の再生可能化ないし置き換えを計っていく、汚染物の放出を浄化範囲内に収める)を尊重することが重要である。たとえば地球の贈り物(悠久の時が産み出した賜物)とでも言うべき資源の利用や、環境汚染・負荷物の排出には、永続性や公平性に配慮した課税制度などを組み込んでいくことが必要である。その際には、統合性とともにそれぞれの地域に引き継がれてきた伝統的英知を積極的に活用することにも留意すべきである。また、社会的公正については、国連人権宣言や国際人権規約を尊重して、人々の自由権とともに生活・雇用・福祉などを満たす社会権の充実のための目標や指標を広く共有していくことが重要である。

第4の課題としては、将来をみすえた巨視的・長期的な視野に立って、社会経済システムの枠組みを調整していく必要がある。すなわち、資源・環境・公正の制約下で持続可能性が確保されるためには、新たな社会経済システムの再編が「3つのセクター」のバランス形成、「公」「共」「私」の社会経済システム(セクター)の混合的・相互共創的な発展形態として展望できると思われる(図)。
過度な成長に頼らない持続可能な社会が安定的に実現するためには、利潤動機に基づく市場経済(私)や政治権力的な統制(公)だけでは十分に展開せず、市民参加型の自治的な協同社会の形成(共)が加わってこそ可能になる。3.11東日本大震災において示されたように人々の絆とコミュニティの力の可能性は、将来的にますます重要性をおびつつある。「共」の領域は、地域(ローカル)レベルの自治・管理から地域再生と福祉基盤の充実をはじめ、農山漁村と都市の交流などの地域間連携、世界レベルでの環境に関わる国境調整、大気、海洋、生物多様性などグローバルコモンズの共有管理に至るまで、市民参加や各種パートナーシップ形成が加わって大きな役割を果たすと期待される。新たな「共」と「公共圏」の形成・発展を、各国レベルそして世界的にも促進・強化していくべきである。
【図】<略>

時代は変化しつつある。昨今の世界経済の揺らぎに対し、金融・財政的な調整だけで対応するのか、根本的な経済・社会制度の変革にまで踏み込んで対応するのかが問われている。企業の社会的責任の自覚と普及、通貨・金融取引税や資産課税などの諸規制の強化、社会的・環境的制度見直しなど、各国、世界レベルで今こそ勇気ある取り組みに期待したい。(修正掲載:「リオ+20」へ向けて、2012年5月、文責:古沢)
*関連情報:グリーンエコノミーフォーラムHP参照<http://geforum.net/>

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(2)「リオ+20」の立ち位置
島根県立大学沖村 理史

20年前にリオの空港に着いたとき、私は、文字通り「世界」各国の首脳が集まる史上最初の会議のテーマに環境問題が選ばれたのだ、という高揚感を持っていた。しかし、その高揚感はフラメンゴ公園で開催されていたGlobal Forumに参加すると、見事なまでに打ちひしがれた。会場には環境問題を取り上げるNGOもいたが、開発問題、女性問題、先住民の人権問題など、環境問題という範疇では語ることができない人々が多く参加していたからだ。1992年の会議の正式名称は、国連環境開発会議であった。日本から参加した私は、環境の会議だと思って参加していたが、もう一つのテーマである開発問題の重要性と多様性を目の当たりにして、地球規模の問題の社会問題化や解決に向けた複雑さを実感したのであった。

1992年の会議で合意された持続可能な発展という概念に基づいて、過去20年間CSDは開催されている。今回のRio+20の成果文書にも、持続可能な発展の三つの側面(環境面、経済面、社会面)の重要性は、数回にわたり言及されている。資源の有限性、進行する環境破壊といった環境問題の重要性を我々日本の市民は追いがちだが、この20年間で経済発展があまり進まなかった発展途上国にとって、経済発展の問題は、過去から現在に至る最大の問題であり続けているのである。リオ市内から見える丘の斜面にへばりつくように建てられているレンガ造りの粗末な家々を会場に向かう車中から見ると、20年前にリオを訪れたときから時間が止まっているような錯覚さえ受けた。経済発展に取り残された国、さらに踏み込んでいえば、経済発展から取り残された社会的弱者に、どのように持続可能な未来を示すことができるのかが、この会議の大きな目的の一つだったように思う。

その視点から見れば、公害患者という社会的弱者を生みながら高度経済発展を進めてきた日本は、そのような轍を踏まない発展のモデルを示すべきであったのではないか。20年前の会議でも日本に求められていた希望は、今でも変わらない。現地に住む方からは、環境技術を数多く持っている日本に対する希望を聞いた。しかし、そのように、環境面に配慮した、しかも発展途上国にも納得してもらうことができるグリーンエコノミーのモデルを今回日本は提示できたであろうか。準備会合でのグリーンエコノミーの議論を見ていると、まだまだ準備が不十分だという感を受けた。

とはいえ、議論は本格化したばかりである。Rio+20の報道を通じて、はじめてグリーンエコノミーという概念を聞いたという人も多いのではないか。残念ながら今回の合意成果文書である「我々が望む未来(The Future We Want)」からは、事前会合で提案された様々な野心的な考えの多くが削除されてしまった。だからといって希望を失ってはならない。合意文章では、今後の交渉の道筋について合意が含まれた。交渉は先送りされたが打ち切られたわけではない。その交渉の中で、環境面や社会面に配慮したグリーンエコノミーを含む「我々が本当に望む未来」を提示し続けないとならないのではないか。

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(3)リオ+20は企業にどのような影響を与えるのでしょう その2
株式会社クレアン&グリーンエコノミーフォーラム
山口 智彦

準備会合からの長いプロセスであったリオ+20が終わり、成果として「私たちが望む未来」を主題とした文書が発表されました。

さて、リオ+20は企業の活動に影響するでしょうか。という観点でリオ+20の議論の推移を眺め、成果文書を読むと、影響が最もダイレクトに表れるのは<サステナブル・デベロップメント・ゴール(SDGs)>であろうとこの項の筆者は考えます。

その概要と、その影響の現れ方について以下述べたいと思います。

国連にはミレニアム・デベロップメント・ゴール(MDGs)という現在実施中の目標があります。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs.html

極度の貧困の撲滅を目指して、例えば、2015年までに1日1ドル未満で生活する人口の割合を1990年比で半減させるということ、 2015年までに全ての子どもが男女の区別なく初等教育の全課程を修了できるようにすること、という具体的な目標を21項目定めており、国連、各国を中心にして、各ステークホルダーがPDCA化して進めています。国連は、この実施に企業にも参加してもらおうと「グローバルコンパクト」を設けたことは周知の通りです。グローバルコンパクトには日本でも数百の企業が参加しています。が、日本企業にとっては、途上国の最貧層の救済ということはどの企業にとっても事業の守備範囲から遠いために、MDGsは日本企業にとって、月でビジネスをせよと言われるのと同じほど縁遠いものであり続けています。

今回、リオ+20は、このMDGsを包含しつつ、今度は人類全体が生き延びることを目標に具体目標を作ることを決めました。社会・環境・経済の全領域をカバーし、かつ上に示した例のレベルで具体的な目標と指標を決めようというものです。サステナブル・デベロップメント・ゴール(SDGs)という名前になるものと思います。

このような総合的な目標を人類全員が持つなどということは、人類が始まってはじめてと言って良いのではないかと思います。

リオ+20で、このSDGsを「作る」ということが決定されました。その上で、「このような体制で作る」ということも決定されます。この稿の筆者は、当文書の交渉会議を数回傍聴させていただきました。途上国はSDGsを具体的な目標群にしたい、という考えで共通しており、よく結束していました。(具体的には、グループ77という130カ国の連合体があり、連合体内で意思を決め、代表者を決め、数名がグループを代表して発言する体制で交渉会議に臨んでいます)SDGsを具体的なものにするためにはその策定体制を強固なものにする必要がある、そのためにはこのような体制としたい、という提言などの主旨が成果文書に反映されています。

策定の体制は、国連が策定作業部会を作り、これに必要なステークホルダーが参画して
数年を掛けて作られていきます。その内容は、そのプロセスで決められていくことになりますが、社会側面については、MDGsの内容を軸に、さらに先進国のライフスタイルなどについても目標化がされるでしょうし、環境についても、気候変動や生物多様性などを軸に、途上国の個別課題、先進国の個別課題がそれぞれ具体目標化されることになるでしょう。経済については、上の例の1日1ドルように、社会性と経済性を併せたかたちの目標が多くなるかもしれません。

人類の至上目標を具体数値で決めようという作業なので、紛糾し、難産となることは必至ですが、これが出来上がり、各国の法律や制度にビルトインされていくことになれば、日本企業にとって、環境の側面だけでなく、途上国課題の思わぬ課題について予期せぬ役割を求められることになるかもしれず、一方、思いもよらぬビジネスチャンスが到来するかもしれません。

各企業のCSR担当者におかれては、まず、リオ+20成果文書のSDGsの項(おそらく245項~251項に収まります)を読まれることをお奨めします。

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(4)玄葉外相演説「緑の未来イニシアティブ」への期待と課題
「環境・持続社会」研究センター & グリーンエコノミーフォーラム
田辺 有輝

6月20日、玄葉外務大臣は、リオ+20本会議での演説の中で「緑の未来イニシアティブ」を発表した。今後3年間で、緑の協力隊・再生可能エネルギー協力で30億ドル、防災協力で30億ドルの計60億ドルの国際協力を柱としている。具体的な再生可能エネルギーの協力額は不明だが、2009年度の再生可能エネルギー関連ODAがわずかに6500万ドルだったことを考えれば、大幅な増額となることは確かだ。このような野心的なコミットメントを歓迎したい。

持続可能な開発を実現するために再生可能エネルギーの大幅な拡大は不可欠であるが、リオ+20の成果文書でも掲げられている通り、すべての人々へエネルギーアクセスを確保することも重要なことである。「緑の未来イニシアティブ」が再生可能エネルギーの拡大のみに視点が置かれ、アクセスについて何も触れていないことは片手落ちとも言える。また、再生可能エネルギーの中には、深刻な環境・社会影響をもたらす大規模水力発電ダムも含まれている。「緑の未来イニシアティブ」の中では、このような大規模水力発電を拡大するべきではないだろう。

いずれにせよ、エネルギー分野は持続可能な開発目標(SDGs)の議論においても重要なテーマの一つとなるだろう。ぜひとも日本政府にはエネルギーアクセス拡充と再生可能エネルギー拡大の議論においてリーダーシップを発揮して頂きたい。

参考1:玄葉外務大臣演説
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kankyo/rio_p20/fm_speech_jp.html
参考2:ODA分野別開発政策・エネルギー
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/bunya/energy/statistic.html

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(5)市民社会の意見集約の困難性と意義について
「環境・持続社会」研究センター
小野田真二

リオ+20の成果文書が採択された。成果文書に関する実質的な交渉は、1月のゼロドラフト発表以降に行われたが、その交渉プロセスに参加した経験から、市民社会の意見集約の困難性と、そこから見出し得る意義について感じたことを述べてみたい。

通常、国連持続可能な開発委員会での市民社会の活動は、個別団体によるもの、複数団体の連携によるものに加え、メジャーグループ(MG)単位によるものなどがある。MGは1992年のリオ・サミットの成果であるアジェンダ21の中で定められており、企業・産業、農業者、地方自治体、科学技術コミュニティ、労働者、若者・子ども、先住民、NGO、女性の9つあり、これまでは全てのMGが合同で何かを打ち出した経験は一度もなかったという。しかしながら、各国インプットを反映したことによるリオ+20成果文書案の弱体化に対する危惧と共同行動によるインパクトの大きさへの期待から、5月29日~6月2日のリオ+20非公式会合において、9つのMGによる共同声明作成の動きが見られることとなった。上記非公式会合期間中において、共同声明は6月1日にver.4まで作成されたが、その主な柱として、以下の9項目が立てられた。(1)リーダーシップの更新、(2)後退しないことと進歩の確保、(3)衡平性と平等の保障、(4)権利の促進、(5)包摂的な参加の保障、(6)ガバナンスの改善、(7)持続可能な開発目標の構築、(8)科学と情報システムに基づく決定の保証、(9)Beyond GDP に動きだすこと。しかしながらこのドラフトに対しては、複数のMGが、内容が薄い、最も重要な事項が取りまとめの段階で弱められたなどとして、共同声明からの脱退を表明した。

そこで、合意の取れる範囲で再度ゼロから作成しなおした結果、6月19日に9つのMGによる共同声明が発表されることとなった(尚、共同声明は主にMGの幹事組織の間で作られたもので、声明の存在を知らないMG参加団体も多いと思われる)。http://www.freshwateraction.net/sites/freshwateraction.net/files/Rio+20%20-%20MG%20Common%20Statement.pdf
その内容とは、(1)全てのレベルでの包摂的な参加の保障、(2)民主的意思決定の実現、(3)情報へのアクセスの提供、(4)ステークホルダーの能力構築、である。これら4点に対しては、6月1日時点のver.4と比べてもメッセージ内容がさらに限定的となり、共同行動の困難性を露わにしたことは否めない。さらに、当初は第三回準備会合で読み上げることを想定して作成れていたが、位置づけもディスカッションペーパーに後退した。この点について、そもそも各団体やMGはそれぞれが持つ理念や実現したい社会象に立脚して、野心的目標や具体的行動を求めているのだから、賛同団体・個人による署名活動はあれども、共同声明を作るようなことがなされなかったのではないか、という声が聞こえてきもおかしくない。

確かに活動の視点からは、具体性に乏しい声明にあまり意味がないものかもしれない。しかし敢えてこれを前向きに捉えれば、この共同声明が持つ意味は、企業・産業から若者・子ども、先住民に至る全てのステークホルダーとって、効果的な活動基盤として絶対に確保したい最低要件を示したと言えるのではないだろうか。リオ+20の成果文書では、持続可能な開発目標や資金に関する新たな検討プロセス、持続可能な開発のフォローアップのためのハイレベル政治フォーラムなどが設置されることが定められた。こうしたプロセスやフォーラムの設置に際しては、これまでよりもさらに強化した形での参加・情報アクセス・民主的意思決定・ステークホルダーの能力構築が求められているということは、真摯に受け止めたいと感じた次第である。

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(6)リオ+20を超えて
「環境・持続社会」研究センター & グリーンエコノミーフォーラム
足立 治郎

リオ+20が終わった。
その成果は、持続可能で公正な世界の構築には不十分であることは、本メールニュースでも、繰り返し述べられている。重要なことは、今回の結果を、今後の私たちの取組みに結び付け、持続可能で公正な社会を現実に構築していくことだ。
そのためには、リオ+20のプロセス・結果を分析し、今後必要とされる取組みを的確に決定・実施していく必要がある。現段階で、そのための分析は十分ではないが、今後に向けて取組みの必要性が明確で、本メールニュースの他の部分と重複しない3点を指摘し、本ニュースの所感を終わることにしたい。

1点目は、日本・先進国の消費・生産形態変更の取組強化の必要性である。リオ+20で「グリーン経済」に関する具体策の合意が進まなかった理由は様々にあるが、その大きな一つに、途上国・新興国のグリーン経済に対する反発があった。グリーン経済の議論過程で、途上国は、まずなされるべきは先進国の消費・生産形態の変更である、との主張を繰り返し行い、そうした声は、一定の説得力をもった。今後、新興国・途上国に、経済のグリーン化の取組み強化を求めていくためには、日本・先進国が、自らの持続不可能で公正でない消費・生産形態の変更を強力に推し進めていく決意を掲げ、国際社会に十分納得のいくレベルの取組みを着実に実行していく必要があろう。(もちろん、日本・先進国にとって、途上国のグリーン経済推進のための効果的な支援やSDGs推進のための取組みを行っていくことも重要である。)

2点目は、「ハイレベル政治フォーラム」を、効果的な役割を果たすよう仕上げていく必要性である。1992年の地球サミット以降、そのフォローアップのために、「持続可能な開発委員会(CSD)」が設置され、公正で持続可能な社会づくりのためのエンジンとなることが期待された。しかし、私もCSD会合に何回か出席してきたが、CSDが期待された機能を十分に果たしてきたとは言い難く、昨年のCSD19では、決議文書の採択にすら失敗した。リオ+20は、こうしたCSDをハイレベル政治フォーラムに置き換えていくことを決定した。CSDの経験を踏まえ、ハイレベル政治フォーラムを、持続可能な社会実現に弾みをつける効果的な組織に仕上げていく必要がある。

3点目に、各国のNGO・消費者・事業者等の率先的な行動の重要性である。残念ながら、リオ+20は、気候変動国際会合等と同様、改めて、全ての国々のコンセンサスが必要な会合において、持続可能な社会構築のために効果的な合意をとることの難しさを露呈した。こうした世界の全ての国々の合意を得るプロセスに依拠しているだけでは、国際社会が必要とする課題解決に遅れをきたし、破局的な未来を現実のものとしてしまう可能性がある。引き続き、効果的な国際合意の形成に向けた努力を続ける必要があるが、それに加えて、NGO・消費者・農林水産業従事者・企業等が、持続可能で公正な社会の構築に向け、たとえ国際合意がなくても、率先して自主的に取組みを実行・強化していくことが重要である。私たち一人一人の気概が求められている。

本メールニュースの他の部分も含め、持続可能な社会構築、環境・社会と調和する経済の世界規模での構築のためには、リオ+20後に大きな課題が残されていることが明らかとなった。グリーンエコノミーフォーラムでは、リオ+20の経験・成果も踏まえ、今後、事業者・消費者・研究者・NGO・政策担当者等の取組み・連携強化のための様々な取組みを行っていくので、皆様の、より一層のご協力・ご支援をお願いしたい。

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3.編集後記

この度、国連持続可能な開発会議(リオ+20)に参加させていただき、私たちは密接に連繋した世界に生きているという事実に改めて気付かされました。

本会場で、各国の政府関係者のみならず、企業・NGO・地域コミュニティなど、様々なステークホルダーが前途ある将来を見据えるために、日夜議論していた光景は今でも鮮明に脳裏に焼き付いています。

特に、ブラジル政府の提出した交渉文書が、”将来世代のためのオンブズマン制度の創設”という文言を削除したことによって、ユースがデモを行ったことは感慨深いものがありました。口にガムテープを貼り、”Give Future Generation a Voice” と書いた紙を持つユースの前を次々に通る各国の交渉官は、何を思い交渉部屋に入室していくのか、と考えさせられました。将来世代の持続可能な開発に益するための会議でもあるリオ+20で、ユースの声がきちんと反映されたことに大きな意味があると思いました。

また、本会場から少し離れた、リオ市内で有名なフラメンゴビーチで開催された世界最大規模のピープルズサミットにも参加してきました。自然が生い茂る広々とした会場には、環境問題に限らず資本主義・労働問題・貧困削減など様々なトピックに関する演説や議論が盛んに行われていました。このような世界中の人々の地道な闘いが、政治的な力として働くのだと肌で感じることができました。

リオ+20を通して、環境問題や貧困が深刻化しているにも関わらず先進国と途上国の対立が解消されず、国際社会がなかなか一致しない厳しい現実を目の当たりにしました。しかし、今後各国が持続可能な開発という共通の目標達成のために、国際会議、企業の取り組み、そして市民の運動を通して隔たりを縮めることに期待したいです。
(JACSES 梶川 由貴)

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発行責任者:足立 治郎
編集長:梶川 由貴
副編集長:金子 郁代、小野田 真二

*このメールニュースは地球環境基金の助成を受けて発行しています。

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